「稲と畳」コラム 第六話

「稲と畳」コラム 第六話

静かなものを、感じる人


昔の日本には、
“見えないもの”を大切にする感覚がありました。


音の少ない空間。
季節の移ろい。
風の匂い。
障子越しの光。


はっきりと言葉にはできなくても、
そこに漂う空気や気配を感じ取りながら、人は暮らしていたように思います。


侘び寂びという言葉があります。


派手さや便利さではなく、
静けさの中にある美しさに心を向ける感覚。


日本の文化には、そうした“余白”を大切にする感性が、確かに存在していました。


ですが現代は、
目に見えるものや、分かりやすいものが優先されやすい時代でもあります。


速さ。
効率。
数字。
情報。


気付けば、静かな感覚に意識を向ける時間そのものが少なくなっているのかもしれません。


その一方で最近、
私は少し違う流れも感じています。


言葉では上手く説明できないけれど、
「何か」を感じ始めている人たちです。


自然素材に惹かれる人。
静かな空間を求める人。
香りや空気感を大切にする人。


そういう方々が、少しずつ増えているように感じます。


実際、当店にも遠方から足を運んでくださる方がいらっしゃいます。


畳の知識が豊富というわけではなくても、
「なぜか気になった」
「ここだけは実際に見てみたかった」


そう話される方が、不思議と少なくありません。


もちろん、感じ方は人それぞれです。


ですが私は、
人が本来持っている感覚のようなものが、少しずつ戻り始めているようにも感じています。


畳は、強く主張するものではありません。


静かに空間に馴染み、
静かに身体を支え、
静かに人を落ち着かせる。


だからこそ、
今の時代になって、あらためて気付く人が増えているのかもしれません。


次回は、
日本人が昔から大切にしてきた「場を整える」という感覚について、もう少し触れてみたいと思います。

畳コラムの関連記事

稲と畳。神聖な植物がもたらす感覚と循環の画像

「稲と畳」コラム 第五話

日本人は古くから、稲を命を支える特別な存在として大切にしてきました。稲藁の畳には、自然素材ならではの心地よさと、数字では測れない魅力が息づいていると思います。
「稲と畳」コラム 第四話の画像

「稲と畳」コラム 第四話

これまでお話ししてきたように、
畳の心地よさは、素材やつくりによって生まれています。
ですが現在では、畳のあり方も少しずつ変わってきています
「稲と畳」コラム 第三話の画像

「稲と畳」コラム 第三話

畳の上で過ごすと、
「落ち着く」と感じる方が多くいらっしゃいます。
それは単なる気分だけではなく、
人が自然に受け取っている感覚なのかもしれません。